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渦巻く嫉妬の中で
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息を切らせながら会社を出た。
心臓の音はまだ、おかしくなりそうなくらいに高鳴っている。
葉山課長の傷ついたような目、温かい手、柔らかい唇の感触。
思い出すと、胸の奥が締め付けられるように痛い。
彼のあんなに荒れた姿は、初めて見たから。
私、そこまで彼の逆鱗に触れるようなことをしたのだろうか……?
それとも、ただ単に機嫌が悪かっただけなのか。
王子と一緒にいた時のことを口にはしていたが、それを本気で彼が気にしているとは考えにくかった。
私の弱みに付け込んだだけの言葉だと、そう考えるのはいちばん自然だ。
彼の心に居座るのは、亡くなった恋人の可南子さんだけなのだから。
「……あ、マフラー忘れちゃった。」
急いで出てきたので、デスクの上にマフラーを忘れてきてしまっていたことに気づく。
まだ取りに戻れる範囲内だけれど、課長のことを考えれば行くべきではないと思った。
夜の空気に曝されて、冷たくなっていく首筋。
彼の温もりが愛しくて仕方ない。
誰かの代わりで良いなんて、本気で思っているわけじゃない。
けれども、そうでも言わないと、彼の温もりには二度と触れられないから。
自分勝手で強引な彼の行為に、本来なら傷つけられても当然なのに。
ただ、頭から離れない。
最後に優しく抱きしめてくれた光景が。
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