エピローグ * 金木犀の香る季節に

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エピローグ * 金木犀の香る季節に

. 風に誘われて鼻先を擽る特有の香り。 苦い記憶を残した、この時期が苦手だった。 けれども今は……… 「アクションじゃないと、絶対に寝る。」 「そんなこと言わないで、こっちにしようよ。全米が泣いたんだよ!?」 「そんな宣伝文句に乗せられてどうするんだよ。同業者のくせに。」 「……。」 ハルの言葉がグサッと胸に突き刺さる。 確かに、全米が泣くわけがない……。 しょぼんと落ち込んでいると、空いていた右手が温かいものに包まれた。 「……春ちゃんがそんなに観たいって言うなら、別に付き合ってもいいけどさ。」 「……いいの?」 「いいよ。今日は……久しぶりの外デートだから。」 彼の言葉のとおり、今日は久しぶりの外デート。 会社でも常に顔を合わせている私たちは、お互いの忙しさについても熟知しているからこそ、それを理由にプライベートで会えないことで喧嘩をすることは全くない。 『仕事と私とどっちが大切なの』なんて、口が裂けても言えるはずがないし、言うつもりもない。 だからこそ、普通の恋人同士として傍にいられる時間が、何よりも貴重で大切に思える。 でも、本音を言えば……。 もう少しだけ、こうやって会える時間を望んでしまう。 .
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