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涙の先にあるもの
横浜から八王子まで、車を使っても1時間以上はかかった。
いつの間にか窓ガラスに頭を寄せて眠り込んでいた私を、容赦なく起こしてくる葉山課長。
「ほら、着いたぞ……起きろ。」
「う……ん……」
その声ははっきりと耳に届くのに、意識はまだぼんやりとしている。
やばい……。
この車のシート、気持ち良すぎだし……。
カスタマイズしたものなのか、やたら身体にフィットしてくる素材だった。
まるで、ベッドの上にいるよう……。
「……それ以上起きなかったら、またキスするぞ。」
「!?」
私の意識を完全に覚醒させるひとこと。
電流が通されたかのように、身体中に走る緊張感。
がばっと起き上がると、ニヤリと見下ろしてくる嫌味な微笑み。
「反応良すぎ。意識過剰じゃねーの?」
「は、有り得ないし!」
っていうか、あんたは前科者でしょうが……。
気を緩めたら、何をされるか分かったものではない。
仕事面では頼りになっても、時に見せる悪戯な笑顔は油断大敵。
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