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終わりと始まりは突然に
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「……ないわー。」
「さっきからうるせーよ、黙って食え。」
「……ハァ。」
「溜息、マジウザいんだけど。」
目の前にはお気に入りの親子丼が用意されたというのに、私の口から出るものは戯言と溜息ばかりで。
それを王子は、冷ややかな視線で見つめてくる。
久しぶりの王子の店。
馬鹿みたいにくだらない世間話で盛り上がって、気持ちを紛らわそうと思ったのに。
それはどうやら、無駄な抵抗のようだった。
「……何か、あったのか?」
「へ?」
「もしかして、新しい男……」
「そんなもの、できてないっつーの!!」
あれは、断じて違う……。
新しい男なんかじゃない、そんな素敵な響きに値する人じゃない。
彼は私の、ただの上司だから。
ほんの少しだけ、弱い自分を見せてしまったことを除けば。
たった一度の、事故みたいな出来事だと思っていた。
それなのに……。
数日経った今でも、はっきりと鮮明に覚えている。
一線を越えることはなく、唇に触れ合うこともせずに、シャツ越しに伝わる温もりだけで、確かに癒された心。
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