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「俺が送っていきます」
「バカじゃないの?」
瞬殺ともとれる声に迎えられると、もう口を開かない方がいいんじゃないかと思った。
「けど、たまにはいいかな」
項垂れた俺に満足したのか、由美さんはここで声を和らげ首を斜めにする。
「こんな日に恨まれそうだけど」
「絶対それ思ってないですよね」
立ち上がった由美さんの顔を見上げると、拓真が視線を下にした。
「預かっても中見るんじゃないわよ」
「どうしますかね」
嫉妬なのか、脅しなのか分からない声が俺の近くに落ちた。
「しっかし。あんなのつけないっしょ」
「少しくらい派手な方がいいの。……あんな地味なのばっかじゃつまんない」
「それ、由美さんの趣味じゃないんですか?」
「……何よ。憎たらしい。どっちも知ってるくせに」
口を膨らませた姿に満足したのか、奴がイスを前に引いた。
「触るなよ。殺されるぞ」
「うるさい。触らせないわよ。全然タイプじゃないもの」
冗談めかした拓真の前で、俺は内心ホッとしていた。
男受けする容姿に長身でバランスが取れた外見。
美人なことに変わりはないが、喜怒哀楽がはっきりしてる分、内面的にどこか愛莉と近い感覚がある。
気が強いところが少々玉に瑕(きず)であるようには思えるが、誰彼構わず媚びてくる女と比べると、このくらいストレートに気持ちを見せてくれる方が男としては有り難い気がした。
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