第1話

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「ふぅーっ、ふぅっ」 パソコンのキーボードの間に溜まるゴミは中々取り切れないもの。 「ふぅー、ふぅー……」 「あぁー、もういいよ。そんな息吹きかけてキーボードのゴミ取ろうとする女なんて初めて見たし」 目の前の視界から消えたキーボードが、隣の男のデスクの上でUSBで繋がれたミニクリーナーでキレイに掃除されていく。 この男は最初から、そんなアイテムが私の手元に無いと知っていながら、からかってバカにしようとして私に自分のキーボードを預けたことが容易に想像出来る。 なんか私って、この人に根暗でまともに掃除も出来ない汚らしい女に見えてない? 短かった髪の毛だって、二年近くかけてようやく腰まで伸ばした。 ストレート過ぎると重いと思って、色は入れてないけどその分毛先を軽くして少し内側に巻いてるのに、地味で真っ黒なゴムで一本に結ばされてるからそれもあまり意味無いし。 だからって誰かに可愛く見せようとか、そんな風に思ってるってわけでもない。 「気持ちわりぃ」 「……はぁ?」 今この人、私のこと”気持ち悪い”とか言わなかった? 「だから、ひとり言ばっかで気持ちわりぃって言ったの」 「……」 ――やっぱり、聞き間違いじゃなかった。
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