76人が本棚に入れています
本棚に追加
それは、天正十四年のまだ日も射さない真夜中のことだった。
一つの人影が暗闇に紛れ怪しく動くのは人気の絶えた繁華街の路地裏。
石造りの壁に身を貼り付け、視線だけはどこか遠くへ向けている。
その眼力は獣をも刺し殺してしまうのではないかと身を震わせるほど鋭い。
鋭い視線の先にはこれまた怪しく動く人影が一つ。
背丈身なりからして男だ。それもさほど若くはない。
男を見つめる人影はひっそりと息を潜める。
男はその様子にまるで気づいていない。
事の始まりは静かに、この乱世を更にかき乱そうと潜んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!