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ホールの前に来ると、小川君が長椅子に腰掛けていた。
「あれ?小川君、帰らないの?」
「森崎さん……と、伊勢君。いや、ちょっとね。考え事をさ」
私達に近付き、涙を拭う。
卒業式で良いほど泣いたのに、また泣いていたのかな。
「考え事って……武司だよね?」
小川君が棺桶に入る時に言った言葉かな。
待ってるからまた会おう。
武司の約束は果たされる事がなくて、でも小川君はそれを信じて疑っていない。
「うん。袴田君は約束を破らないよ。だけど……もう卒業なんだね」
高広は私達の話が分からない様子で退屈そう。
「どこにいたって、武司は会いに来てくれるよ。ここにいたって仕方ないから、もう帰ろう」
「うん……そうだね」
少しガッカリしたような……それでも納得したような様子で顔を上げて、私達は生徒玄関で靴を履き替えた。
もう、この上履きを使う事もない。
このドアを通り過ぎると……ここから入る事はなくなる。
そんな想いに胸が締め付けられながら……私達は外に出た。
今までに見た事もないような、人の群れ。
「おめでとうございます!」
「また学校にも遊びに来てください!」
そんな声が聞こえる中、校門に向かって歩いていた私の耳に……その声は聞こえた。
「明日香!ありがとう!」
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