丘の上の茶房

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時が止まったようなここで少女はずっと暮らしているのだろうか。 すっと紙に影が走り 少女はカウンターの奥に向かう。 戻ってきた時には茶器を持っていた。 ああ、買うつもりはなかったのに手間をかけさせてしまった、申し訳ない事をした そんなふうに思った。 そして、その事に驚いた。 他人の仕事ぶりについて、結果を考えずに心からふっと何かを感じることなんて。 この店の雰囲気がそうさせるのだろう。 もしくは旅のせいだ。 ままごとのような小さな急須が、これまた華奢な少女の手に収まっている。 傾けられて、茶が出てきた。黄色だ。薄い黄色。 香りがたつ。 少女が、茶器を押し出し頷く。 断るのも悪いので指を伸ばす。 湯呑みより小さく、お猪口のようだ。 口をつけると香りが鼻に抜ける。 意外なことに、香ばしく甘かった。 緑茶の香りのように強くない。 多分旨いのだと思う。 良し悪しなどわからないが、清涼な一杯だった。 好きな人なら、どんな菓子や料理にあうかわかるのだろう。 自分が日本でこんな風に丁寧に茶を入れるなんてあり得ないが。
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