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【久能 波流】
柊二の部屋をノックする。勿論返事はない。まだ学校から戻っていないのだから当然なのだけれど。
いつものように掃除をしようすると、勉強机の上に置かれた一冊のノートが目に入る。表紙に何も書かれていないピンク色の大学ノートは、随分前から使っているのか表紙の角が傷み、何か色々貼り付けてあるのか膨らんでいる。
いつもならそのままにしておくそのノートを開いたのは、好奇心からなのか、それとも事故後、感情を全く出さなくなってしまった柊二の心の中を知りたかったからなのか。
それは保護者として、手を出してはいけない領域だという事を頭は理解していた。それでも、私はそのノートを開いてしまう。
最初のページに貼られている写真、それは悠と佐奈さん、それからまだ小さな柊二が一緒に写っている写真だった。
これは柊二の小学校の入学式の日私が撮った写真だ。確かアルバムの中に仕舞ってあったはずなのに、いつ柊二は持って行ったんだろう。
さらにページを捲ると、新聞記事から週刊誌の記事まで、あの事故に関するものがびっしり隙間なくと貼られているページが続いている。柊二らしい几帳面さが見える。
更にぺらぺらと捲っていくと、だんだん記事が減ってきて、インターネット上のコメントの書き写しが増えてくる。
追突したトラック運転手の飲酒や居眠り運転を疑うもの、マリオンに使われたエンジン部品の欠陥が原因だと思われる事故の体験談や野崎自動車のリコール隠しを疑うものなどだ。
その後には、柊二の字でメモが書かれている。
欠陥があると疑われている部品名、設計部署、それに続いてどこで調べたのか設計者の名前まで。
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