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「風邪、ひくだろっ。ったく、――」
そんなこと言われたって……。
ここで着替えろとか、だって、だって。
だけど、もうっ、―――。
もうーっ!!
えいっ!!!
体操服を受け取ると頭からすっぽりと被り、シャツのボタンを急いで外した。
濡れたシャツを脱ぎ、体操服の袖に腕を通すと冷えた身体にゆっくりと体温が戻り始める。
「き、着ました」
「じゃあ、そっち向くよ」
「う、うんっ」
はあああっ、頬っぺたが熱い……。
「……ありがとう。明日洗って返すね」
「いつでもいいよ」
雨で制服が濡れて、男の子に体操服を借りて、しかも目の前で着替えるだなんて、――。
もう、ぷすぷすと頭から白い湯気が出ちゃってるんじゃないかって。
それなのに
「入江ってさ、―――」
藤木くんの手のひらが私の頭にすとんと乗せられた、感触。
「な、何……?」
思わず反射的に顔を上げてしまった私の目に映る、藤木くんの穏やかな笑顔。
「……っ」
いきなり近付いたその距離感に耐えられなくなった心臓が、爆発しそうな勢いでドキドキと大きな音を立て逸り出す。
い、い、い、痛い、―― 心臓が、痛い。
これって、どんな状況なの、―――??
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