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その時に描いた『剣道をする人』の絵は、意外にも県知事賞を取り学園祭にも展示された。
こっそりデッサンしていたものを顧問の先生に見られて、県美展に出品するよう薦められたんだ。
誰にも話していないけれど、あれは藤木くんがモデルなんだ。
竹刀を構えた、―― 藤木くんの姿を描いたものなの。
「入江、部活、してるの?」
「うん、美術部」
「美術って絵とか?」
「私は主に絵だけど……彫刻や陶芸の子もいるし……」
「俺、絵の才能とか全然ないわ」
背の高い藤木くんは、私に目線を合わせて話をしてくれた。
そのちょっと首を傾げた様子が私の胸をドキドキさせる。
「美術部のね、教室の窓から武道場がよく見えるんだよ」
「そうなの?」
普通に会話をしていることに、びっくりする。
ああ、そっか。
きっと藤木くんがたくさん話を振ってくれるからだ。
「そういえば、――。
この前の合唱コン、4組すごかったじゃん。金賞だろ」
合唱コンクールの話とか。
「鈴木先生、やる気ねえよな」
『おじいちゃん』と呼ばれている、もうすぐ定年の数学の先生の話とか。
気が付くと、いつのまにか雨は小降りになっていた。
もうちょっと、話していたいな。
この時間、楽しいよ。
そう思っているのは……きっと、私だけだよね?
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