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藤木晴登(はると)くん。
竹刀を振る姿が本当に眩しくて、いつも美術室から見てた人。
ばいばい、また明日ねって、手を振っちゃったよ。
明日って、体操服返す時にまた喋れるってことよね??
きゃーっ、ど、ど、ど、どうしよう……。
頬が緩み、にやけそうになったその瞬間
「美琴ちゃん??」
リビングのドアが開いた。
「……っ」
思わず下を向いて、この甘酸っぱいときめきがばれないように大きく息を吸い込んだ。
「だ、大丈夫??」
「……ただいま」
佳奈子さんは玄関に座り込んだ私を見て、慌てて駆け寄ってくる。
「苦しいの?立てる?」
「平気だから」
喘息の発作が出たのと勘違いしたんだろう。佳奈子さんは心配そうな声で私の腕を取る。
「このジャージ……」
どう見たって、ぶかぶかのジャージは男の子のもの。
「びしょ濡れになったから借りたのっ。明日、返さなきゃいけなくて……」
早口でそう答えると慌てて靴を脱ぐ。
何だか急に恥ずかしい気持ちがこみ上げてきた。
「じゃあ洗濯しなきゃね。美琴ちゃんも体、拭かなきゃ。
シャワー浴びれるかしら?」
なんだか、全部見透かされてるようで居心地が悪い。
私は佳奈子さんの腕を払うと、そのままバスルームへ直行した。
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