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己れの名前を忘れ、霊体でいた頃の彼ほど、その狂気がむき出しではないにしても。
だが、まあ、大丈夫かな、とも思う。
彼には今は、ストッパーとなる存在が居るから。
「せんせー」
という声がした。
見れば、松葉杖をついた男の子が上の階から覗いている。
「……大塚」
「先生、見舞いに来たよ。
嘘。
病室に忘れ物してて、取りに来たんだ」
何が嘘だ、と眉村は苦笑する。
あんなことのあった学校に、教員として彼が戻ったとき驚いたが。
それより驚いたのは、意外にいい教師だと言うことだ。
下りて来ようとする大塚の足を気遣い、眉村は階段を上がっていく。
かつての彼にはなくて、今の彼にはある、失いたくないもの。
教師という立場だ。
自分のためというよりは、彼らのために、その名を汚すようなことはもうしない気がする。
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