第四章 朝

54/196
前へ
/2591ページ
次へ
 とは言っても、よくわからない人だが。 「命拾いしたねえ」 と呑気に行人が言う。  誰が? どっちが? と思った。 「明路っ」  そう叫んで、聡子が廊下から飛び込んでくる。 「うわ。  また来たよ、めんどくさいのが」  そう呟いた行人は聡子が苦手らしく、手を離した。 「じゃあね、明路さん」 「君、待ちなさいっ」 と叫んだ聡子の腕を明路は掴む。  よ、呼び止めないでください。  頼むから。  奴こそ、面倒臭い存在なのだから。  聡子はこちらを振り向き、 「なんなの、あれ」 と訊いてくる。 「と……友だち」  ―に見えたら、びっくりだ。  もちろん、聡子は信じない。 「あれ、あのときのあの子よね。  今度こそ、真実を聞かせてもらうわ」 と言う聡子に、 「いや、あんた言っても信じてくれないじゃない」 と苦笑いして答えた。
/2591ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1023人が本棚に入れています
本棚に追加