1023人が本棚に入れています
本棚に追加
「明路さん、それ、もうお出しして」
和彦の母に言われ、はい、と明路は、台所から大皿に載った料理を運ぶ。
断れなくて、結局、法事に来てしまっていたのだ。
仕事を抜けて来ているので、少し手伝ったら、戻ろうとは思っているが。
「まったく、いい加減、店でやればいいのに」
和彦の母の妹、喜佐子(きさこ)はぶつぶつ言いながら、ビールを冷蔵庫から出している。
「ねえ、明路さん。
明路さんも、料亭でやる方がいいわよねえ」
と言われ、は、はい、と慌てて答えたあとで、しまった、と思ったが、和彦の母は聞いていなかった。
いや、聞こえないふりをしていただけかもしれないが。
もう何回忌だからわからないような法事なので、地味な服ならいいかと思ったのだが、和彦の母からまた電話があり、
「うちは何回忌だろうが、黒よ」
と念を押されたので、普通に黒い服で来ていた。
やれやれ、と思いながら、廊下に出ると、ちょうど和彦が来るところだった。
ビールの空瓶を何本か手にしている。
こちらを見、
「来なくていいと言ったろう」
と眉をひそめる。
「そうなんですけどねー。
来ない方が、後で面倒臭そうだったので」
と答えながら、すれ違った。
最初のコメントを投稿しよう!