第四章 朝

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  「明路さん、それ、もうお出しして」  和彦の母に言われ、はい、と明路は、台所から大皿に載った料理を運ぶ。  断れなくて、結局、法事に来てしまっていたのだ。  仕事を抜けて来ているので、少し手伝ったら、戻ろうとは思っているが。 「まったく、いい加減、店でやればいいのに」  和彦の母の妹、喜佐子(きさこ)はぶつぶつ言いながら、ビールを冷蔵庫から出している。 「ねえ、明路さん。  明路さんも、料亭でやる方がいいわよねえ」 と言われ、は、はい、と慌てて答えたあとで、しまった、と思ったが、和彦の母は聞いていなかった。  いや、聞こえないふりをしていただけかもしれないが。  もう何回忌だからわからないような法事なので、地味な服ならいいかと思ったのだが、和彦の母からまた電話があり、 「うちは何回忌だろうが、黒よ」 と念を押されたので、普通に黒い服で来ていた。  やれやれ、と思いながら、廊下に出ると、ちょうど和彦が来るところだった。  ビールの空瓶を何本か手にしている。  こちらを見、 「来なくていいと言ったろう」 と眉をひそめる。 「そうなんですけどねー。  来ない方が、後で面倒臭そうだったので」 と答えながら、すれ違った。 
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