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「ちょっと手伝ったら、すぐ帰りますって」
黒い服を着た和彦は、あまり見たくなかった。
あのときを思い出すから。
消えてしまったあの未来。
昌生は、どちらの未来の方が救われたのだろう。
和彦は、どちらの未来の方が―
そのとき、ポケットに入れていた携帯が鳴り出した。
緊急の電話が入ってはいけないので持っていたのだ。
「あら、藤森。
どうしたの?」
『何処居るんだ、てめー』
「すぐ戻るって言ったじゃない。
法事よ、法事」
何処んちの法事だ、と言っている電話をそのまま切った。
ポケットに突っ込み、大皿を抱え直したとき、斜め後ろに立って、こちらを見ている喜佐子に気がついた。
振り向き、頭を下げるが、そのまま行ってしまう。
いつも、そう愛想が悪いわけではないのに、どうしたのだろうと思いながら、それを見送った。
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