第四章 朝

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   さて、一応、顔は出したし、帰ろうかな。  既に法事なんだか宴会なんだかわからない状態になった場所を抜け出し、明路はエプロンを畳んだ。  お母さんに挨拶して帰ろう、と思ったのだが、その姿がない。  広い家の中を捜していると、和室から口論する声が聞こえてきた。 「わかってないのは、あんたの方よっ」  ……やばい。  和彦の母の声だった。  触らぬ神になんとやら。  和彦に帰ると言って、此処は何も言わずに去ろう、と思ったとき、障子が開いた。  げ。  中腰のままフリーズした明路を見下ろし、和彦の母は言う。 「明路さん、お疲れさま。  仕事なのに、抜け出してきてもらって悪かったわね」  は、はい……。  お先に失礼します、すみません。  と、思ったのだが、声に出たのかどうかは定かではない。  見下ろす目線に、強面の犯人より怖い、と思っていたからだ。
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