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国道をしばらく走ると道を聞かれ、市立病院のそばだと説明するとユウくんはそれだけで大体の場所を把握したようだった。
「茶色い方? 白い方?」
と、確認されたのはマンションの外壁の色だけ。
あの辺りには確かに茶色と白のマンションふたつがある。
「白い方の、奥側の方」
簡単にそう言っただけで、彼は了解したようだった。
車だといつもと違う道で大回りになるけど、やっぱり速い。
国道から県道に曲がったところで、この坂を下ったらもう家だった。
「お前さ」
と、最後の信号待ちで、漸くユウくんの方から口を開いた。
「ナツとちゃんと話つけて、タケのことちゃんとしてやれよ」
足元から吹き出る風が冷たくて、つま先の感覚がなかった。
手の指も。
震えているのに気付かれたくなくて、ジャージの袖を、また伸ばした。
「それで良いんだと思う……?」
「なんで俺に聞く。元々そうするつもりだったんだろ」
「だって分からなくなったの。やっぱり駄目なんじゃないかって、ユウくんと話しててそう思ったの。ゆ、ユウくんが言ったんじゃない。ナツを切るのかって」
静かに顔ごとこっちに向けたユウくんは、無表情だった。
視界の隅で信号の色が変わる。
私を見ていたユウくんは気付かなくて、スタートが遅れたから、後ろの車が小さくクラクションを鳴らした。
ユウくんの小さな舌打ちと共に車が動き出す。
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