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ユウくんの車の音が遠ざかっていく。
呆然とそれを聞きながら、最後に残された言葉を反芻した。
尚吾くんは確かに昨日、ユウくんのこと気にしていたと言っていた。
それはでも、ナツに聞かされた言葉から私の気持ちを誤解していただけで――。
私とユウくんとの間になんか、そんな風に思われるようなことは何もないはずなのに。
尚吾くんにちゃんと気持ちを伝える道を選ぶってことは、そういうことなの?
ナツと話せば済む話ではなくて。
ユウくんとの間には、今まで以上に距離を置かないといけないってことなの……?
立ち止まっていたのはほんの数秒。
急に雨足が強まって、上から傘を押しつぶすみたいな勢いで叩きはじめて我に返った。
とりあえず、家に戻ろう。
濡れちゃってるし、ここにいても風邪ひくだけだ。
昨日小言を食らったばかりなのに、のんびりしていて門限を過ぎたら面倒だし。
無理矢理頭を切り替えて足を動かしながらも、動揺している理由が分からなかった。
ユウくんと、必要以上に仲良くした覚えはない。
苦手意識や恐怖心はなくなったと思うけど、今でもよく分からないし。
わざとなのか素なのか知らないけど、神経逆撫でするようなやな物言いばかりだし。
セ、セクハラも言うし!
煙草も――、
「……あ」
煙草とカビと――決して良い匂いではなかった、車内。
あれを不快に思わなかった理由に、不意に気が付いた。
あれは私にとって、懐かしい匂い、だったんだ。
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