7月 やまない雨はない、とか

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まさか、と思う。 聞かされた時も、今でも信じられない。 あのカタくて真面目な母が、不道徳を働くわけがないのだから。 でもそれ以来、どこかで思ってもいるのだ。 そういう諸々の過去の積み重ねが、今の母を作っているのかも知れないと。 私に弱さを見せることなどほとんどない人だったのに――、さっきの様子は、私がよく知っている母らしくはなかった。 離婚後父がどこでどうしているのか、何も知らないまま過ごしていた子どもの頃、父からは年に一度だけ、誕生日にカードが届いていた。 どこにも連絡先は書かれていなかった。 カードが途絶えたのは小学校の中学年くらいだったか……その時ひとつだけ、母が父について教えてくれた。 父に子どもが出来たらしい、と。 ああ、そう言えばあの時も。 お母さんは、さっきと同じ顔をしていたかもしれない。 腹違いの弟だか妹が出来た――そんな実感の湧かない事実よりも、その表情や様子に私は動揺を覚えた気がする。 職場内の不倫が露呈して、完全に周囲の信用を失った父はその後会社にもいられなくなったらしい。 それも伯母から聞かされたことだから、どこまで信じて良いのか分かったものではないけれど。 まだ父が父だった幼稚園の頃まで住んでいた社宅に、父の会社名がそのままついていたのでよく覚えていた。 伯母の話を聞いた後に一度だけ、その会社名をネットで検索した。 当時の記憶、その後経過した年数、色々あわせて考えたら、もし父がずっとその会社にいたとしたら、その頃既にある程度の役職についていてもおかしくなかったから。 けど、少なくともホームページで紹介されている役職付の中には、探し物は見つからなかった。
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