7月 やまない雨はない、とか

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誰が誰を裏切って、誰の人生を壊したのだろう――。 恋はふわふわと甘くて優しいものだと、どこかで憧れていた。 憧れて……尚吾くんに恋をして。 ナツのことがあって悩んだり落ち込んだり、回り道したけど――今も、綺麗に片付いたわけじゃないけど。 でも、やっぱりそれは甘くて優しい、幸せな感情だったと。 私は知ったばかりの、はずなのに。 誰かが恋をして。 誰かの恋が叶って。 その裏では別の誰かの、人生が壊れてる――。 「……な、馬鹿な。大袈裟だよ」 わざと口に出して呟いて、考えを振り払った。 声は浴室に、微かに反響して消えた。 母が、父が、相手の女性が、誰がどうだったのかは分からないけれど、確かに悩んだり傷ついたりもしたのだろう。 でも今、少なくとも母は、どん底の不幸にいるわけじゃない。 離婚で、人生多少は狂ったかもしれない。 でも壊れてなどいない。 私が知っている母は、壊れてなどいない。 そうだ、きっと誰の人生も壊れてなどいない。 父は転職を強いられたのかもしれないけど、きっと新しいところでも上手くやってる。 別の女性と築いた新しい家庭で、子どももいて、きっと幸せに。 言い聞かせた。 無理矢理に、自分を納得させようとしていた。 高校生の自分の恋愛と、結婚が絡む大人の恋愛を、並べていっしょくたに考えたって意味がないと分かっているのに。 誰かの不幸の裏に誰かの幸せがあると、思いたくなくて。 ああそうだ、私は狡い。 考えてるのは、母のことでも父のことでもなくて、自分の都合ばかりだった。
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