7月 やまない雨はない、とか

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今私が喜び過ぎたら母は、今日揚げたてを出した自分を褒めるのではなく、今まで揚げたてを出してこなかった自分を責める。 根本原因まで突き詰めて考えて、父親がいないことを――離婚した過去を責める。 そういう人だ。 真面目すぎて。 周りではなく、全部自分のせいにする。 もしかしたら突き詰めすぎて、私を産んだことも後悔したことが、母にはあるのかも知れない。 そこまでは、考えたくもなかった。 滲み付いている。 母のそういった性質が、私にも。 多分、よく似ている……悪い意味で。 自分でもそれを、たまに感じる。 「うん、美味しい」 揚げたての春巻きは、いつもよりも美味しかった。 パリパリの皮が唇の端を攻撃するみたいに刺さった。 母が私にくれる、精一杯の優しさと愛と――、そして、隠し切れない痛みの味がした。 母はダイニングテーブルの向かいに座ったまま、じっと黙って私の食事の様子を眺めていた。 話をするつもりで向き合ったのに切り出しにくいのか、私が食べ終わるのを待っているのか。 「お父さんが、どうかしたの?」 居たたまれなくなって先に話に触れたのは、私の方だった。 母は気遣うような視線を寄越した。 『食べ終わってからでいいのよ』と言われた気がしたけれど、私は箸を止めないことで、『気にしないから大丈夫』と伝えたつもり。 こういう無言の会話は、母娘だから成立するのかもしれない。 母は、静かに話し始めた。
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