7月 やまない雨はない、とか

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「ちょっと、なんでそんな顔してるの」 と、母が苦笑した。 そんな顔と言われても、どんな顔してるんだか自分では分からない。 「可愛いでしょ」 きっと泣きそうなのを我慢して、不細工な顔だ。 そう思ったからわざと、言ったのに。 「そりゃ、お母さんの娘だもの」 「……」 お母さんって、こんな人だったっけ。 「馬鹿ね。自分の娘が可愛くない母親がどこにいるの」 目を細めたお母さんが、ぽんと頭に手を乗せて。 泣きそうなのがバレるのも承知で、私は鼻を啜った。 完璧じゃなかったら、愛してもらえないと思ってた。 お父さんが私を置いて出て行った、みたいに。 ちゃんとしてなかったら。 勉強も部活も、生活態度も、友達関係だって、全部。 ただ頑張ってるだけじゃ駄目だと。 100点満点取り続けてないと、いつか捨てられちゃうかもって。 それが怖くて、ずっと必死で。 でもいつからか疲れて。 頑張っても100点なんか取れなくて。 嫌になって――、逃げて。 適当な理由を付けて部活を辞めた。 多分あれが、小さな抵抗の始まりだった。 バイトを始めて、新しい世界を見て。 性懲りもなくそこでも頑張ろうとする私に母は否定的で、なんだか……これが反抗期、というやつだったのか。 このところずっと、母とは真っ直ぐに向き合えていなかった気がする。
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