7月 やまない雨はない、とか

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「あれねえ……離婚の話が出る、ちょっと前だったかしら。お父さんが出張のお土産に買ってきてくれたんだけど」 と、当時を思い返しながらも母は笑う。 出てきた話はとても笑えるような話じゃなかった。 なのに母は、心底可笑しそうに笑いながら話した。 「お父さん、レシートをごっそりお財布の中に溜めこむ人だったから。たまにお母さんが整理してあげてたのよ。そしたらなんと」 「……何?」 「お父さん、同じ店で琥珀をいくつも買ってたのよ。あれきっと、当時手を付けてた女の子たちに配ったんだわ!」 「うわ……最低」 むしろ、その時点で捨てない!? なんでそんなに楽しそうに話すのか、意味が分からない。 それに、そんなものを私に託した意味も。 「でもほとんどが安物で、お母さんがもらったのはそこそこ高いのだって分かってたから、一応特別扱いはしてくれたみたいなのよ」 「いや……そういう問題かな」 「もう1個同じ値段のがあって、それは気に入らなかったけどね」 尚更最低じゃない! という言葉は、最早呆れてしまって口にする気にもならなかった。 その『もう1個』が、離婚の原因になった女に行ったんだろうか。 「捨てなかったのは別に、未練があったからじゃないわよ。物に罪はないし、高いものだから勿体ないでしょ」 母が冗談のつもりで言ったらしい言葉に、私は素で引いて不快感を顔に出した。 「いやだ、その金の亡者的発想。しかもそれを娘に譲り渡すかな」 すると母は一瞬固まって、それから気まずそうに視線を泳がせた。 あ――、違う。 お母さん、嘘吐いた。 きっと、『勿体ない』から捨てなかったんじゃない。 母のヘタクソな強がりとその下の本音が、その時なんとなく、見えた。
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