7月 やまない雨はない、とか

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「――戒め、よ」 降参したみたいに、小さな声で母はそう自白した。 「本当はそのレシートがきっかけで、離婚話に発展したの。だからあの石は……馬鹿な男に引っかかった過去を忘れないための、戒め。二度と同じ失敗をしないために」 ツキン、と、胸が痛んだ。 お母さんは、何にも悪くないのに。 もう愛してなどいない――、その言葉に嘘はないにしても、裏切られた傷は、なかったことになんかなってない。 「莉緒にあれをあげたのは、魔除けみたいなもんよ。もうお母さんは若い頃みたいに馬鹿じゃないし、必要ないかなって。その代わりにあんたが、そろそろ恋をしてもおかしくない年になったから……お守り代わり」 ああ。 そういう意味、で。 「分かりづら……」 「なんだと思ってたの?」 「――……別に」 ――私とお母さんを、過去に縛り付ける重石だと。 とは、真相を聞いた後には、なかなか言いづらい。 「あんた、あれずっと鞄に付けてたのに、最近外したでしょ。もしかして、嫌だったの?」 「え、気付いてたの?」 「なくなったな、とは思ってた。失くしたのか外したのかは分からなかったけど……その様子だと、自分で外したのね」 「あるよ……バッグのポケットに。金具壊れちゃって」 本当は、引きちぎって壊したんだけど。 母は、私の小さな嘘を見破ったみたいに、少し笑った。 「別に、無理して付けとく必要もないわ。変な男に騙されさえしなければ……あんたがちゃんと幸せな恋、してるなら」
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