5月 遅れて来た春の嵐

7/32

284人が本棚に入れています
本棚に追加
/335ページ
動いたのはケイだった。 ユウくんに向けて振り上げた右手の綺麗な指は、ピンと揃って張っていた。 あ、平手――。 「ちょ……っ」 「えっ!?」 なんでそうしたのか分からない。 ケイがユウくんを殴ろうとしたのを見たその瞬間、身体が勝手に動いて。 「莉緒ちゃん!」 ユウくんに飛びかかる勢いで近寄った私が、何か反撃に出るんだとみんな思ったんだろう。 面喰って目を見開いたユウくんの顔が、近くにあった。 なんだコイツ、ちょっとタレ目だ。 意外と可愛い目。 頬骨の上にふたつ並んでホクロがあったことにすら、今気が付いた。 そうか、私はこの人の顔をちゃんと見たことがなかったんだ。 「馬鹿に、しないで」 頭に血が上ってた。 自分の行動の意味など分かってない。 ただ悔しくて、ここにいることを否定されたのが。 仲間じゃない、と突き放されたことが。 馬乗りになって、彼の右手から吸いかけの煙草を奪って。 ――これが吸えれば、いいわけ? どっからそんな考えが生まれたのか分からない。 ただその一線を越えたら、認めてもらえるような気がした。
/335ページ

最初のコメントを投稿しよう!

284人が本棚に入れています
本棚に追加