5月 遅れて来た春の嵐

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「私……」 「莉緒?」 ケイが、心配そうに顔を覗きこんでくる。 スクールバッグのポケットからスマホを取り出して、わざとらしく見えないように時間を確認し、焦ったような声を上げる。 「いけない、そろそろ帰らないと」 「あ……もう、そんな時間か」 同じように時間を確認したケイが、少し残念そうな声を出す。 うん、ごめんね、とちょっと困ったような笑いで返しながら、内心では早くこの場から逃げ出したくて仕方がなかった。 みんなはこの後も延々とここに残っていることを知っている。 一体何時までここでしゃべっているのか、そんなに遅く帰って親は何も言わないのか不思議でしょうがないけれど、それは私がここのバイトを始める前からこのグループに染みついている習慣なのだ。 『親にはバイト終わる時間、1時間遅く伝えておくこと』 そう、最初にナツに言われたように。 実際には1時間なんてものじゃないことは、この1ヶ月ちょっとでよく分かっていた。 だから私だけ、いつも先に抜けて1人で帰らないといけない。 話が盛り上がりすぎて楽しくて抜けたくない時もあるし、そうじゃなくても、場を白けさせないように、気を遣わせないように、帰り際のタイミングの見極めはもの凄く難しかったのだけど、な。 もしかしたら、私が帰った後の方がのびのびと出来ていたのかもしれない。 煙草も自由に吸えるし。 本当はみんな本心では、さっさと帰れって思っていたのかも。
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