5月 遅れて来た春の嵐

21/32

284人が本棚に入れています
本棚に追加
/335ページ
器用に原付を片手で運転しながら、もう片方の手で背中を押してくれている。 くんっと自転車のスピードがあがり、気持ちよく風を切った。 自分で漕ぐよりも、少しだけ速い。 「大丈夫? 怖くない?」 「平気、むしろ気持ちいい!」 楽だし速いし気持ちイイ。 たまに背中の手が外れて、代わりに片足を自転車に引っかけて押される。 タケは随分慣れた様子だから、よくこうやって誰かを押してるのかも。 原付の正しい運転の仕方なんか分からないけど、でもこれってどう考えても…… 「これ、捕まる!?」 「まともな大人に見つかったら捕まる!」 やっぱり。 絶対、やっちゃいけないコトだよね? 「あるでしょ、ホントは駄目なのにやっちゃうことって。その許容範囲って、人それぞれだと思うんだよね。俺的にはこれはOK、見つからなければね」 タケはそう言って、私の顔色を確認するみたいに覗きこんでくる。 「あ、危ない! ちゃんと前向いてて!」 慌ててそう言うと、楽しそうに笑った。 視線を前方に戻して、「でも莉緒ちゃんが嫌ならやめるよ」と言いながら。 ホントは駄目なのにやっちゃうこと。 例えば親に吐いた小さな嘘とか。 例えば地下道の坂を自転車に乗ったまんま下るとか。 未成年なのに、煙草を吸う、とか……? 『人それぞれ』という言い回しに、妙に納得した。 基準が違うだけで、私だって同じだった。
/335ページ

最初のコメントを投稿しよう!

284人が本棚に入れています
本棚に追加