5月 遅れて来た春の嵐

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自転車の動きが安定するのを待って、またタケが押してくれる。 もう家が近い。 最初に「市立病院の近く」と言っただけで、タケが迷わずに選ぶ道は私がいつも通る道と同じだった。 中学は学区が違うはずなのに、この辺詳しいのかな。 友達が近くに住んでるとか。 「ねえ莉緒ちゃん。今やってることも違法だけど、これで俺のこと嫌いになる?」 「え、そんな!」 不意に問いかけられて、慌ててぶんぶんと首を振るとタケの肩が揺れた。 「だよね、莉緒ちゃんだって同罪だもんね!」 「うわ、なんかその言い方……!」 タケはなんだか満足したように、楽しそうに笑う。 「これも違法、あれも違法。これは良くてあれは駄目って理屈は通らないよ」 「……!」 ドキリとした。 正論、のような気がする。 返す言葉が出てこなかった。 「はは、ごめん。今のは屁理屈」 そう言いながら、前を向いたままの目は自信ありげに細められていて。 うわ、絶対確信犯だこの人。 拗ねたフリをして押し黙る。 進行方向に目を向ければ、もう私の住むマンションが見えてきていた。 「ユウはさ」 「え、ユウくん?」 突然出てきたその名前にびっくりして聞き返した。 打って変わった真剣な表情には少しだけ憂いが見て取れて、不安になる。 さっきまでのユウくんとのやり取りが、まざまざと思い出された。
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