6月 降らなきゃいいのに

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「ん? そうだった?」 タケは少し首を傾げながらキョロキョロと黒目を動かす。 あんなに分かりやすかったのに、タケにとってはそんなに気になることじゃなかったのかな。 「全然違ったよ……『愛実』って。私ちょっと……」 「ああ」 私が口ごもったところで、やっと得心が行ったとでもいう感じに彼の口角が上がる。 あ、これ、墓穴掘ったかも。 「どきっとしちゃった?」 ――やっぱり。 図星を指されて足を止めた私に、詰め寄るように一歩、二歩。 私は私で馬鹿正直に、反対方向へ逃げるように一歩、二歩。 いや、これ。 地下道の壁際に追い詰められてるだけだし! 「羨ましい? 特別な呼び方」 「べ……別にっ」 ち、近い。 でも、別に退路を塞がれたワケじゃない。 かわそうと思えばかわせるのに、タケと壁に挟まれて動けないのは――動こうとしないのは、なんでなの? 「莉緒」 「――ッ!」 『ちゃん』が取れただけだ。 大して変わらない。 なのにそんな風に、噛みしめるみたいに一音一音大事に発音されると。 困った。 今、絶対顔が…… 「ふふ、真っ赤」 ――だよね、やっぱり。
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