6月 降らなきゃいいのに

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「もう! そうやってからかうの、止めてくれる?」 「だって可愛いから」 「ほらまたそうやって!」 くつくつと笑うタケの脇を、するりとすり抜ける。 こうやっていつもちょっと甘い雰囲気を作って私を固めた後に、冗談にすり替えるから。 こっちの気持ちばっかりがぐらぐら揺れて、手のひらで転がされて遊ばれてるみたいな。 ――悔しい、のに、悦んでる私って、なんだか。 「莉緒!」 「もー、いいってば!」 冗談にしてはしつこく呼び捨てにしてくるタケを黙らせようとして、ちょっと怒った顔を作って振り返った途端。 思いの外至近距離に彼が立っていて、少し怯んだ。 「いやごめん、別にこれは冗談とかじゃなくて」 「――え?」 「莉緒『ちゃん』って、なんか他人行儀でやだなって思ってたからさ」 「あ……うん」 そう、だよね。 『莉緒』って、別にメグが『愛実』になるほど特別なことじゃない。 中学からの友達はみんなそう呼んでるんだし。 だから、「駄目?」とか聞かれたら、首を横に振るしかないわけで。 けどその後、「じゃあさ」の後に続いた 「俺も名前で」 ――そのセリフには、すぐには頷けない、わけで。
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