6月 降らなきゃいいのに

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満悦の顔でタケが笑い、止まっていた歩みを再開する。 一度口から出てしまった名前。 その顔を見てしまったら何故だか引っ込みがつかなくて、これからずっと本当に名前で呼ぶべきなのかどうか凄く迷う。 いきなり尚吾なんて呼び出したら、絶対みんなにからかわれるし。 そうでなくても、呼び慣れない――聞き慣れないその名を口に出すのは結構恥ずかしい。 困ったまんま黙って階段を上りきった地下道の出口で、大きな傘を開きながら彼は言った。 「この雨、どうせ傘差してても濡れるしさぁ。莉緒、一緒にこっち入れば。その方が話しながら歩けるし」 にこりと。 さらりと。 それは俗に言う相合傘のお誘いなわけで、もう、どうしたら良いんだか。 軽くパニック。 いや、軽くじゃなくて大いにパニック。 「そ、それは。どちらかが傘を持っていない時にする行為では」 噛みながらも答えたセリフのどこがツボだったのか、ぶっと盛大に吹き出した彼が、開きかけていた私の傘をもぎ取った。 「ほら行こう。ここでのんびりしてたら門限来ちゃうよ」 こうやっていつも、有無を言わさない空気を作る。 自分に見えない糸でもくっついてて彼が引っ張ってるんじゃないかと思うくらいに、考える時間も迷う時間も与えられないまんま。 結局私はその大きな傘に収まって、大雨の中を肩を寄せて歩き出した。
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