6月 降らなきゃいいのに

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――いつも、雨が降ればいいのに。 傘の下で触れあった肩。 いつもより近い距離で聞く彼の声。 大きな水たまりを見つけると、自然に肩に手をまわして来てそれを避けるように誘導してくれる。 私の方へ寄せてくれた傘。 そのせいで彼の反対側の肩が目も当てられないくらいびしょびしょになっていたことに、マンションのエントランスの明かりの下に着いてから初めて気が付いた。 意識しすぎて名前どころかタケとも呼べなくなった私に気が付いたのか、彼が苦笑を浮かべながら『無理しないでいいよ』と言ってくれた時。 『尚吾、くん』 ――改めて自分の意思で、彼の名前を口にした。 嬉しそうに細められた目。 それを見たら、やっぱり名前で呼びたいと思う。 『ごめん、しばらくは混じると思うけど。でも、慣らしていく』 そう言った私に笑いながら、 『別に頑張らなくていいよ。でも嬉しいな、大分昇格した気がする』 ……尚吾くんが使った昇格という言葉の真意を、考えてしまう。 今日くらいの大雨がずっと続いたら。 そしたらもっと、仲良くなれる、気がする。 私がうっすらとイメージする『昇格』は、彼が意図したものと、同じベクトルを向いてるんだろうか。 このままずっと、雨が降っていればいい。 ――濡れた制服にアイロンを当てながらほわほわと帰り道の余韻に浸っていると、 「のんびりやってたら焦がすわよ」 と母からの横やりが入った。
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