6月 降らなきゃいいのに

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6畳の自室はベッドと机と本棚でほとんどスペースが埋まっている。 かろうじて隙間にアイロン台を広げ、かけ途中だったスカートのひだを直しながらふうっとため息を吐き出した。 お母さんの気持ちが、分からないわけじゃない。 良い高校へ入って、この先は良い大学を目指して、そして良い会社へ入って。 その望みの原点にある、母親のエゴではなく、女としての苦しみが。 部屋の隅のポールハンガーにかかっている、まだ少し湿ったままのスクールバッグに視線を走らせ、またひとつ、ため息を漏らした。 飾り気のないバッグにはひとつだけ、それが私のものだという印が――500円玉くらいの大きさの琥珀の石が、ぶら下がっている。 高校入学の時に母親から譲り受けたペンダントトップのチャームを付け替えたものだ。 古い物だし、小物作りが趣味というわけでもない私のセンスで適当に加工し直しただけあって、今風でも何でもない。 だけどその石には、少なくとも私たち親子にとっては大きな意味があって。 そしてそれは、お母さんを、私を、こんな風に締め付けている鎖の象徴でもある。 いっそ、外してしまおうか。 そうしたら私は、もう少し自由になれるんだろうか。 ――そんなわけはない。 はっきりと言い返せずに暴言を吐いてあの場を逃げ出したのは、単にお母さんの言い分に腹が立って話をする気をなくしただけではないのだから。
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