6月 降らなきゃいいのに

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染み付いている。 物心ついた頃からずっと、言われ続けてきた母の考えが。 私の中の無意識に、すり込まれている。 微かに、僅かに、でも確かに。 私の中に、ある。 一高を、偏差値の低い学校を、そこの学生を。 未成年のクセに当たり前の顔で煙草を吸うみんなを、夜にゲームセンターやカラオケに繰り出すみんなを。 ――自分よりも『下』の人間と見下す、驕った考えが。 そもそもそう言う教えだっただろうか、母にすり込まれたのは。 違う、と思う。 お母さんが教えたかったのは、女であっても誰にも頼らずに1人で生きられるだけの経済力を得るための方法、だ。 私を抱えて、ずっと1人で生きてきた母ならではのその考えは、理に適っている気もするんだけれど。 いつからか少しずつ、それが歪んだ、ような。 歪めたのが母なのか、私が勝手に解釈を間違えたのか、元々そうだったのかなど分からないけれど。 『こう在りたい』『こう在って欲しい』が行き過ぎて『こう在らねばならない』に、そしていつの間にか、その理想とかけ離れた相手を『存在悪』とみなしている、ような。 そんな価値観が母の中に――そして、私の無意識の中にも。 認めたくはないけれど、確かに、ある。
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