6月 降らなきゃいいのに

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不意に脳裏をよぎったのは、未だに苦手なあの男の言葉だった。 『アンタさぁ。見下してんだろ、俺らのこと』 バレてる。 見透かされてる。 私自身が穢いと思う、染み付いた価値観が。 ……恥ずかしい。 事実、だからだ。 あの時、どうしようもなく腹が立ったのに何も言い返せなかったのも――今、お母さんと言い合いになって逃げてきたのと同じだ。 認めたくない自分の裏側を、見せつけられてしまったから。 『ここじゃ異端なんだよアンタ。そういうの気付かない鈍さって、どうなの』 ユウくんが剥き出しの敵意で私を攻撃したその言葉は、タケ……尚吾くん、のフォローで克服した気になっていた。 気にしないようにして、あれは私個人に向けられた敵意ではないと思おうとして、結局その後私自身が何かをして変わったわけではないのに。 こんなことしても、何の気休めにもならない。 根本が変わるわけではない、と、分かっているけれど。 アイロン台の上で待っているスカートの裾と、熱を発し続けるアイロンを交互に見つめて――、ひと折り分だけ、丈を上げようと決めたのは。 穢い自分を否定していたい私の、ただの意地で、ただの自己満足だ。 『こちら側』と『あちら側』――無意識にあるその境界線を、少しでも無くしたくて。
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