6月 降らなきゃいいのに

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スカートの丈を少しだけ上げた翌日もまた、どんよりとした空からはサアサアと霧のような細かい雨が降っていた。 この程度の雨ならばいつもは無理矢理自転車で行くのだけど、仄かな期待が私に徒歩・電車通学を選択させる。 もしかしたら今日も、バイトの帰りは尚吾くんと――なんて。 短くなったスカートに、彼は何か言ってくれるだろうか。 隠したかった太腿が、階段の昇り降りの時や椅子に座る時などに少しだけ見えてしまうのが気になってしょうがない。 けど、自分が思うよりもその数センチの違いに気付く人はいないのか、学校でスカート丈の変化を指摘してくる友達は誰もいなかった。 私的には結構な覚悟であげたひと折りだったんだけど……な。 この様子じゃ、尚吾くんも他のみんなも気付いてくれないかもしれない。 空回りが、虚しい。 スクールバッグで揺れている琥珀は、結局外せないままだ。 それが、簡単には変われない自分の証みたいで何だか嫌だった。 こんなものに、大した意味などないのに。 見るだけでこう気分が滅入るくらいなら、やっぱり外そう。 別に捨てるわけじゃない、バッグの使っていないポケットにでも忍ばせて持っていればいいんだから。 そう思って、チャームに触れて――結局外せないのは。 コレをずっと手離せずに大事に持っていたお母さんの気持ちがどうしてもよぎってしまうからで。 高校入学と同時にコレをくれたお母さんの気持ちを、裏切りたくないからで。 やっぱりこの小さな石は、私たちを絡め取る鎖なのだ、と憂鬱になった。
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