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木下さんが入っているのは、お客様の買い物ルート的に一番混む15番レジだ。
お客様の列は伸びていて、商品スキャンの手を一瞬も止めずに彼女はそう指示を出した。
その間にも、値引きは正確に読み上げている。
レジを1台開ける。
それはつまり、1人制で、という指示だ。
未だに私に経験があるのは、空いている時に練習を兼ねた、社員さんの見張り付きの時だけ。
統括マネージャーの三橋さんからはまだ合格が出ていないことを、この人も知っているはず。
「……大丈夫ですか?」
「――お願いします。バッジ付けてね」
お客様の手前、必要最低限の言葉だけで確認をすると、しっかりと目を合わせてそう言われた。
1人でも、落ち着いて、ゆっくりなら出来る。
研修中のバッジを付けて、ゆっくり。
それでもレジを1台増やす方が良いと、この場を任されている木下さんが、状況を見て判断したのだ。
この、混雑した状況の中で。
まだ合格の出ていない1人制。
それでも、社員さん不在の中で今この場の司令塔である木下さんが、それが最善と判断しての指示だ。
信用、してくれている。
必要としてくれている。
頼られている。
やれないとは、言えない。
やらないわけには、いかない。
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