6月 降らなきゃいいのに

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木下さんが入っているのは、お客様の買い物ルート的に一番混む15番レジだ。 お客様の列は伸びていて、商品スキャンの手を一瞬も止めずに彼女はそう指示を出した。 その間にも、値引きは正確に読み上げている。 レジを1台開ける。 それはつまり、1人制で、という指示だ。 未だに私に経験があるのは、空いている時に練習を兼ねた、社員さんの見張り付きの時だけ。 統括マネージャーの三橋さんからはまだ合格が出ていないことを、この人も知っているはず。 「……大丈夫ですか?」 「――お願いします。バッジ付けてね」 お客様の手前、必要最低限の言葉だけで確認をすると、しっかりと目を合わせてそう言われた。 1人でも、落ち着いて、ゆっくりなら出来る。 研修中のバッジを付けて、ゆっくり。 それでもレジを1台増やす方が良いと、この場を任されている木下さんが、状況を見て判断したのだ。 この、混雑した状況の中で。 まだ合格の出ていない1人制。 それでも、社員さん不在の中で今この場の司令塔である木下さんが、それが最善と判断しての指示だ。 信用、してくれている。 必要としてくれている。 頼られている。 やれないとは、言えない。 やらないわけには、いかない。
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