6月 降らなきゃいいのに

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急がなければならないこういう時に限って、最初のお客様からカゴが山盛りだ。 落ち着いて。 大丈夫。 2人制の時と、やってることは一緒なんだから。 焦っちゃダメ。 レジを開ける前から声をかけてきたくらいだ、この方は相当急いでいるかせっかちなのかもしれない。 研修中のバッジに気付いたようで、あからさまなため息を吐き出した。 けど、商品をスキャンしていく手さばきで判断してくれたのか、すぐにその不満そうな気配は消えていく。 そうよ、大丈夫。 バッジを外すことは、もう許されているんだから。 チェッカーもキャッシャーも、もうスピードは人並みだ。 正確さも丁寧さも――2人制の時限定だけど――お褒めの言葉をもらったこともある。 自信持って。 山盛りのカゴの底が見えてきた。 一番下に重たい牛乳パックが2本横になって敷かれていたのが現れても慌てない。 スキャン後のカゴのどの商品を移動すれば牛乳パックのスペースが取れるかは、頭の中に入っている。 「お待たせ致しました。6534円でございます」 お客様が満足そうに頷いたのは、買い物しながら概算していた金額と合致したからか、接客のスピードが合格点だったからか。 分からないけれど、まずまずのスタートを切れた。 ついクセで次のお客様の方へ向きかけて、慌てて戻る。 いけない、1人なんだから、まだ金銭授受が残っている。 「大きな袋2枚でよろしいですか?」 「3枚いただける?」 「かしこまりました」 忙しい時こそ、なるべく言葉を発する。 先方の無駄に待たされているという感覚をなくすため。 こっちの気持ちも、それでほぐれていく。
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