6月 降らなきゃいいのに

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その『へえ』の意味を、聞き出したいけどお客様の前だ。 単純に知らなかったことを教えられたことに対する『へえ』なのか、別の意味があるのか――。 会計を終え、手が空いたら聞いてみようかと思ったのにそのタイミングで次のお客様が現れる。 まるで入りたての新人バイトみたいなレジ捌きなのに隣から強烈な威圧感を放ってくるように感じるのは、ユウくんの高い身長のせいなのか、私が元々持っていた彼に対する苦手意識のせいなのか。 なんだかよく分からないまんま、結局あんまり話も出来ずにぎこちなく居心地の悪い時間だけが過ぎて行く。 ユウくんがそれでも下手くそなりに仕事として真剣にレジと向き合っているから、その微妙な空気感の中、私も接客に徹した。 客足が疎らになって途切れると、今度は逆に沈黙に困った。 聞きたかったこともタイミングを逃した今口にしづらい。 自然と周りを見るようになったのは波が途絶えて余裕が出来たというよりも、その空気に耐えかねて意識的に逃げただけなのかもしれない。 気が付けば、いつの間にか前の方のレジに入っていたケイがレジ締めを始めていた。 え、もうそんな時間……というか、通常後ろのレジから締め始めるはずなのに何故一番後ろの私のレジが残されるんだろう。 なんとなく非日常気分だったのが、急速に現実味を取り戻していった。
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