side 渉

8/25
前へ
/26ページ
次へ
今日は、もう少し泣かせてやりたかったけど止めた。 なんだか無性に抱き締めたくなった。抱き締めて抱き締めて、優しくしてやりたくなった。 昔みたいな笑顔、見たくなった。 どうなるかは分からないけれど。 あんな酷いことしたから笑顔は無理かもしれないのに。 マンションに着いて、鍵を開けようと兄さんのスーツからパクったキーケースを開ける。 オートロックの部屋なんざいつも部屋番号を押すだけだったので、四つもある鍵に戸惑う。 何で四つもあんだよ。 ――恋人か? 苛々して手当たり次第差し込もうとした時だった。 「はいはい。間宮さんの所の弟さんだね。その鍵じゃないよ」 後ろから声をかけてきたのは、スーツ姿の老人。 優しげな笑顔で、一番左の鍵を指差す。 「管理人の瀬渡(せわたり)です。普段は受け付けか一階の、階段横の管理人室にいるから。君の事は昨日お兄さんに聞いたからね。よろしく」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

307人が本棚に入れています
本棚に追加