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今日は、もう少し泣かせてやりたかったけど止めた。
なんだか無性に抱き締めたくなった。抱き締めて抱き締めて、優しくしてやりたくなった。
昔みたいな笑顔、見たくなった。
どうなるかは分からないけれど。
あんな酷いことしたから笑顔は無理かもしれないのに。
マンションに着いて、鍵を開けようと兄さんのスーツからパクったキーケースを開ける。
オートロックの部屋なんざいつも部屋番号を押すだけだったので、四つもある鍵に戸惑う。
何で四つもあんだよ。
――恋人か?
苛々して手当たり次第差し込もうとした時だった。
「はいはい。間宮さんの所の弟さんだね。その鍵じゃないよ」
後ろから声をかけてきたのは、スーツ姿の老人。
優しげな笑顔で、一番左の鍵を指差す。
「管理人の瀬渡(せわたり)です。普段は受け付けか一階の、階段横の管理人室にいるから。君の事は昨日お兄さんに聞いたからね。よろしく」
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