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俺の中からその意識は消えた。
これでも自分がオリジナルではないのは、よくわかっている。
逃げやがった。
俺は自由に動く自分の手を眺めて思う。
あっちから俺を表に引っ張り出すことは、なかなかできない。
あっちが引きこもると俺が出てくる。
俺は自在にあっちを動かせていた。
それが今はできない。
声をかけても聞こえているのかいないのか、答える言葉もない。
俺は……死んだ。
沙良と一緒に死んだ。
生きたくない。
そう思っていたら、もう一人の人格、オリジナルが起き出した。
オリジナルの世界を引きこもったまま時々眺めていた。
俺の傷をえぐった芙由にどうしようもない怒りを感じて、中途半端に動いたりしたせいでオリジナルは俺を自覚することとなった。
俺は足の上に広げられたままのアルバムを見て、オリジナルの意思に背きまくってやることを考えた。
言葉遣いで判断されることを考慮して、芙由の兄、浩行の家に向かった。
浩行は同じクラスで、俺と沙良の共通の連れだ。
その家に遊びにいくこともよくあって、芙由とはそうやって出会った。
家にいけば芙由もいる。
俺は1年以上ぶりになる浩行の家にたどり着くと、1年以上ぶりだというのに、高校の頃のようにその家に忍び込む。
もう夜中。
玄関からは入れない。
家の裏側、塀に登り、物置の上に登り、1階の屋根に這い上がる。
その屋根のすぐそこの窓が浩行の部屋。
俺はその隣のベランダのほうにいく。
柵を越えてその引き戸を軽く叩く。
叩いてから開けようと手をかけると開いてしまった。
不用心だ。
そのまま引き戸を開けて、靴を脱いで家の中にお邪魔する。
室内は真っ暗。
戸を叩いた音に気がついたかのように、ベッドの上に起き上がった人影は見える。
俺も影になって相手に認識されていないと思われる。
たぶん泥棒にでも思われているだろう。
今後、ちゃんと鍵をかけて寝るようになれば、それでいいようにも思う。
俺はオリジナルの言葉遣いを思い出して。
「中原」
そう人影に声をかけた。
ベランダのほうが芙由の部屋。
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