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優しくして欲しい…。
どこかではわかっている。
それでも俺は沙良を持て余す。
以前の沙良を知っているから。
俺が壊してしまったんだと思うから。
…どんな理由をつけてみたって、結局は俺にはもう沙良を大切にできる自信もない。
俺の目の前で沙良は殴られた。
腹に子供ができたって言ってんのに、腹を蹴られまくった。
あんなのは親じゃないと思った。
沙良がどれだけその両親が好きだったか知っていた。
俺が沙良を殴る父親を止めようとして、母親のほうが俺を止めた。
母親は父親を止めることもなくて。
沙良は子供を流した。
いろんなこと考えた。
俺が沙良に手を出さなければ、ちゃんと避妊していれば。
沙良が俺を誘わなければ、沙良が親に言うというのを止めていれば。
親が受け入れていれば、何も殴ることをしなくてもよかったんじゃないかと思ったり。
自分を責めて、他人を責めていた。
死にたかった。
全部、終わるような気がして。
何も考えなくてすむような気がして。
オリジナルの毎日が繰り返される。
大学へ通う日々。
芙由にあれだけ会いたいと言われていたのを知っているくせに、俺の顔を装っているのか、芙由に声をかけることもない。
帰りは沙良の家にいく。
幼児のような沙良の遊び相手になって、飯は食べずに帰る。
父子家庭。
父親と息子という男しかいない家。
父親は食べて帰ってくるし、俺はずっとファーストフードやコンビニ弁当や惣菜暮らしだった。
施設から戻ってずっと。
オリジナルも飯を作ることもなく、出前を頼んだり、ファミレスにいく。
たまに寿司食いにいったり、高いレストランにもいく。
俺より豪勢な食事をとりやがる。
ちょっとムカつく。
少しは遠慮してやれと言いたくなる。
俺にはダイレクトにオリジナルが何を考えて行動しているのか、考えていることが伝わってくる。
『中原…、何してるかな。もう寝てるかな』
なんていう芙由のこと。
なんでもない、何もない寝る前の時間。
気になるなら芙由の部屋への道は知ってるだろうし、行けばいいのに行かない。
行かないどころか学校で声もかけない。
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