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芙由は俺をじっと見てくる。
俺は嘘じゃないと見せるために目を逸らさない。
「……スズ、出して。あたし、さよならも聞いてないよっ。涼宮先輩、気絶してっ」
「痛いのいや。……おまえが俺に殺されてみるか?少しでも俺の中に浮いてきたら、表に出る人格、ひっつかまえて交代してやるよ」
俺は芙由の首に手をかける。
芙由は抗うことなく受け入れて、俺をじっと見てくる。
俺の中のオリジナルを見ようとしている。
「……先輩、スズ、いなくなるの?…先輩とスズは一緒にはいられないの?
スズはあたしのことを好きになってくれた。スズという人として…。だからあたし…、許されるかなって…思ったのに」
芙由は泣き出しそうな顔を見せて、俺の中にいるはずのオリジナルに聞かせるかのように言う。
「あいつにおまえのこと言ってやったら、おまえなら大丈夫だって言いやがった。おまえなら大丈夫。さよならとありがとうとごめん。そればっかり」
それを言ってやると、芙由はぼろぼろ泣き出して、芙由の首に手をかけたままの俺の手にその雫が落ちる。
オリジナルに聞こえろと、俺は芙由だけをまっすぐに見る。
「……会わせなきゃよかった…。スズを…沙良先輩に会わせなきゃよかった…。
スズ、……スズっ」
芙由はぼろぼろ泣いたまま、俺の中に呼びかけてくる。
俺の腕を掴んで、俺の中のオリジナルを求めるように俺を見つめる。
それでもその意識は浮いてこない。
本当に消えたのだろうか?
あいつはだけど、願っていた。
「スズ…。あたし、大丈夫なんかじゃないよ。…大学受かったじゃない。一緒に通おうって言ったじゃない」
涙を流しまくる芙由の目はあまりにも俺を見ていなくて、俺は目を伏せる。
芙由は俺の膝に乗りかかるようにして座り、俺の頬に両手を当てる。
「置いていかないで、スズ。あたし、ここにいるよ。キスしていいよ。ねぇ、スズ、答えて」
俺の顔に芙由の涙が降ってくる。
俺は意識を引きこもらせようとしてみる。
それでも出てこない。
芙由は俺をオリジナルのかわりのように抱きしめる。
強く抱きしめてくる。
苦しい。
耳にはひたすら、芙由の泣き声とスズと呼ぶ声。
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