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10年生きた。
死にたくなるようなつらい記憶も何もかもを抱えて。
オリジナルが逃げるから、俺は逃げないように。
その記憶も他人事のようにして。
涼宮一登は俺になった。
友達ができた。
彼女もできた。
岩戸に閉じ籠もるオリジナルのことなんて忘れていた。
昏睡状態で病院に担ぎ込まれて、目覚めて。
俺の体が勝手に動いていた。
そのまま引きこもった。
それでも沙良がどうなったのか気になって、会いにいった。
……助けて。
俺が求めている。
強い人間でいたつもりだけど、どうしようもなく俺は死にたい。
守りたかった。
オリジナルが沙良に惚れてくれたら、俺はいいときだけ出てきて、沙良に接することができる。
そんな考えの中で、沙良を抱いたあとにオリジナルに交代してやった。
俺の腕の中で沙良は自傷行為のように自分に噛みつく。
俺はその唇を止めて、顔をあげさせる。
俺にはもう無理だと沙良もわかっている。
「どうして鈴が出てこないの?一登はこういうとき、逃げるじゃない」
沙良はわかったように言ってくれる。
「鈴にあたしを任せて一人で逃げて…。
あたしだってあたしを止めたいよ。でも止まらない。一度やったら何度やっても同じだと思ってしまう。あなたや鈴が構ってくれるから、それに甘えてまた繰り返す。
……一登、鈴にかわって。あなたじゃダメなの」
「…おまえも芙由もあいつばっかり求めるなよ」
「芙由?ヒロの妹?……鈴の彼女?」
「違う。ただの同級生。俺はもう一回高校3年やったから、芙由と同じクラスになった」
「…鈴の彼女なら殺す。鈴は誰にもあげない」
沙良は狂った目で恐ろしいことを言ってくれる。
狂ってしまった。
狂わせてしまった。
俺が。
「カズ、一緒に死のうか?もう一回死のう?」
沙良は笑って言ってくれる。
もうだめなんだと、オリジナルはどうしてわかってくれないんだろう。
俺は涙を目に浮かせて、戻ったり壊れたりを繰り返す沙良を持て余す。
助けて。
おまえなら沙良をあやせる。
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