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やっと一つ、妹の手掛かりが掴めた。あの大震災で生きていた、それだけでも希望になる。
目の前のおじさんは、何度も嬉しそうに頷いていた。
「泣いておるお前さんに良い事を教えてやろう」
「良い事、ですか?」
僕は、おじさんの肩から手を放し、服の袖で涙を拭くと、妹の行方を知る唯一の人をじっと見つめた。
「その子は今、この近くの高校に通っとるらしい。私の弟がつい一年ぐらい前に言っておったわ。昔会った水無月さん家の迷い子が、ついこの間、この近くの高校に入学した、とな」
「近くの高校ですか?」
たった一人の妹の手掛かりを持つ人物だ。少しでも情報を知りたい。
おじさんは記憶を思い返すように空を見上げ、
「確か……四泉(しせん)高校だったかのぅ」
四泉高校。僕の通っている学校だ。入学したのが一年前だと言うと、今は高校二年。つまり僕の二つ下だ。妹は僕の一つ下だったから、おじさんの言っている事の辻褄が合う。
希望はついに確信へと変わった。
四泉高校の高校二年生の水無月という名字の女の子が僕の妹だ。
僕は目の前で笑うおじさんに深々と頭を下げ、
「ありがとうございました! このご恩は必ず何かしらの形で返させて頂きます!」
「いや、何も返さんで良い。あの迷い子が家族に会えたらそれで良いわい」
おじさんは満足げな顔を浮かべ、僕の手から行方不明の紙を取って帰って行った。
「ありがとうございました!」
僕は、帰るおじさんの背中を見送りながら、もう一度、深々と頭を下げるのだった。
僕の目から流れる嬉し涙はもう止まらない。
おじさんの言う事を全て鵜呑みにして良いのか分からないが、僕の目から流れ落ちる涙は嘘を吐いているように思わなかった。
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