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「あ・・・」
高台からスコープを覗いて標的を探していると、見知った顔が映った。
前に一度会っただけだが、よく覚えていた。
(だって・・・)
私の、鮮やかな血のように赤い髪を「綺麗だ」と言ってくれたから。
幸いまだ彼女はこちらに気づいていないが、いつ気づくとも知れない。
ここは戦場で、彼女は敵国の人間だ。
仲間も近くにいるだろう。
迷っている暇はない。
仕留めるなら今しかない。
「・・・」
ティーは周りに敵がいないことを確認し
再度スコープを覗き
ゆっくりと銃の引き金に指をかけ
短く息を「ふっ」と吐き――
――静かに銃から手を離した。
(場所を変えよう)
素早く銃を片付けながら考える。
(まだあの人に言えてないことがあるから・・・)
そう、あの時は突然すぎて、ちゃんと「ありがとう」と言ったかも定かではない。
それでもはっきり覚えていたのは、雲一つない青空のように澄んだ、彼女の水色の瞳だった。
(・・・あなたの瞳も、とても綺麗です)
次、彼女と会ったら言おうと決めていた言葉はそっと胸の中で呟いて、静かにその場を後にした。
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