第10話

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《彩世》 依頼者の名前は大田彩世で年齢は19歳、今年春高校を卒業し父親が宮司を務めている神社で巫女をしていると言う事だった。山下と由美子はJR天王寺駅から和歌山駅に行きそこから紀勢本線に乗り換えた。車窓には7月の海が広がっていた。快晴、最近台風上陸の情報も聞かない。今年は早めの梅雨明けなのだろうか。由美子もぼんやり車窓から海を眺めていた。仕事を離れてこんなのんびりと旅をするのは何年ぶりだろうか、今こうしていると甲斐性の無いように思える山下のライフスタイルが羨ましくさえ思えてくる。自分は成功者になろうとしているのだが、毎日あくせくしているのだけなのかもしれない、そんな思いも由美子の頭をよぎっていた。電車に揺られて2人は目的駅で下車した。駅からタクシーに乗り熊野神社前まで来ると、そこからは長い神社の階段を登って行かなければならなかった。本人に今日訪ねる事は連絡済だった。夕刻とは言うものの汗が滲み出る暑さだった。長い階段を登りきると目の前に神社が現れた。社務所で事情を伝えると巫女姿の彩世が応対した。「始めまして、依頼を受けた山下と申します。」「大変厄介な依頼をいたしまして申し訳 ありません。」 挨拶の後、境内の中にある休憩所に案内された。休憩所に案内された2人は目の前に置かれた麦茶で喉を潤した。彩世は2人の前に座し山下の質問に対応した。「父には内緒にしてください。」開口一番の言葉に山下は止む無く頷いた。「今日訪ねて来たのは取材で来たと言う事にしておいて下さい。名刺はこちらで用意 しておきました。」彩世はちらりと由美子の方を見て付け加えた。「御連れの方はアシスタントと言う事でお願いします。」由美子は一瞬目を大きく開き少しむっとした表情になった。「ふーーーん、私が貴方のアシスタント?。」皮肉るように小声で山下に言った「皮肉るなよ。」と小さな声でかえした。しかし、彩世は19歳とは思えない落ち着いた雰囲気。
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