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《双生児》
予約していた駅前付近の民宿に辿り着いたのは午後8:00を過ぎていた。夕食を済ませ山下と由美子は今日の出来事を回想しながら話し始めた。しかしこんな時間たっぷりに由美子と同行し話しをしたのは何年ぶりだろうか。学生時代以来であろうか。かたや極楽とんぼ、かたやキャリアウーマン。今までこの2人の関係を保ってきたものは唯一電話だろう。それにしても長く続いている。
「あの子変よね。」
テーブルを挟んで由美子はそう言った。
「あ、そう。」
山下自身も気付いてはいたが、気付いていないような振りを装った。
「口では表現しづらいんだけど、あの子私たちを試しているようないないような。」
「そうか・・。君もそう感じた?」
「何か一段上の立場、一般で言うポジション的な上じゃなくて、別次元の立場って言うのか、私たちが凡人なの?といいたくなるような気持ちになったんだけど、それに私見たのよ彼女の背中から腰に掛けて大きな傷痕があって、その傷痕はなんと今探している妹とくっついていた跡だったって言っていたのよ。」
「おい、なんだよそれを早く教えてくれなきゃ。」
山下は悔しそうに言った。
「ごめん、彼女がいる前では言えなくて。それに余りに衝撃的すぎていいそびれてた。」
「繋がっていたってどういう事。」
「それが、どんな風に繋がっていたかは本人も憶えていないし、聞かされてもいなかったみたいで…・。」
山下はしばらく黙っていたが何かを思い出したかのように話しはじめた。
「双子が繋がって産まれてくる事は良く聞く話だ。場合によっては頭が2つで胴体が一つの人間も生まれてくる。小さい時ベトナム戦争で枯葉剤の散布で双子がくっついて生まれてきたと言うニュースを見た事があるけど。」
「ええ、私も憶えているわ。」
「あんな風ならなんとか両方が助かるように切り離せるだろうけど。
確かに、でも彼女の傷痕からはそんな風にくっついていたなんて見えなかった。」
由美子は一枚の紙に今日みた彩世の傷痕を画いてみせた。」
山下は由美子の描いた絵を食い入るように見て言った。
「この傷だったら下半身は一つになって繋がっていた可能性が非常に高いな。腰の当たりが盛り上がっていたという事は、どちらかを生かそうとしない限りありえない、腰だけが繋がっていたなら両方を救うために腰の盛り上がりが無くなる様な手術、傷痕になるはずだ。」
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